Hello Hello

 

 舞台をゆっくりスポットライトが照らす。女が一人。

 間。(スポットライトは20秒毎に一つずつ増えてゆく)

 

女 ハロー、ハロー。聴こえていますか。
  あの日、私は壊れました。
  私の今言った「あの日」と、あなたが思う「あの日」は、多分一致してい
  ます。これから先何十年、私たちにとっての「あの日」は多分、一つの意
  味になるでしょう。
  そっちはどうなっていますか。
  こっちは多分もう何日かすると瓦礫の下に埋まった私の身体を誰かが見つ
  けて私の身体は移送されてまた別の土の中に埋められるでしょう。そうな
  ると思います。でもそこには仲間がいます。だからさみしくはないと思い
  ます。お隣さんに挨拶をして、私はゆっくり、分解されて地球になってい
  きます。そう考えると、結構それも素敵なことのように思えます。
  そういえば、私は高校生の時犬を飼っていたのでした。高校生の時という
  か、高校生の時まで。その犬は私よりだいぶ先に地中に潜ったので、これ
  はずいぶん先輩になるなと今思いました。
  会えるといいな。
  そうか、これから私がどういう経路で地球の一部になってゆくかは正直わ
  からないのですが、考えようによっては私は先輩たちに会えるチケットを
  手に入れたのかもしれません。おばあちゃんに黙っておじいちゃんにお先
  に会えちゃうとしたら、なんかちょっと申し訳ないけどちょっと贅沢な気
  も同時にします。
  勿論、かなしさはあります。こっちもあっちも多分それは変わりません。
  でも、私のかなしさよりも、私の祈りが届く方が、それはきっと素敵なこ
  とだと思いますし、おんなじ時間をかけるのなら、前を向いた方が素敵で
  す。私にとっての前がどこになるのかは、今はもうわからないのです
  が、こころの前は、多分こっちだと思います。だから、

 

 女を照らすスポットライトの直径が拡がってゆく。
 舞台が明るくなってゆく。

 

女 ハロー、ハロー。聴こえていますか。
  私は大丈夫です。のんびり待っています。だから急がないで、どうか
  あなたの速度を変えないで。私は元気です。今までも、これからも。
  星が見えます。空がきれいです。目を閉じれば、ちゃんとそこにあり
  ます。
  ずっと、ずっとあります。
  あなたの顔も、あなたとの日々も、あなたのことも、全部。
  ちゃんとあるから。それはきっと、あなたの中にも。だから私たちは、
  ずっと一緒にいられたし、これからもいられるんだね。
  これは、発見です。世界を変える、大発見。
  瓦礫の下でも、土の中でも、それはずっと、ちゃんとありました。

  思いには重力がありません。だからきっと、瓦礫を越えて届くと思い
  ます。
  だから、届け! 思い。

 

 客席も含めた空間全体が明るくなる。
 女が大きく手を振る。お辞儀をする。