「ただいまは言おう」
部屋に女が一人座っている。
がちゃりという金属音。
女、立ち上がる。
ドアが開き、男が一人入ってくる。
女 おかえりなさい。
男 おう。
女 どうだった?
男 何が?
女 今日という一日は。
男 どうした急に。その言い回し。
いつもと変わらんよ。相変わらず小西は使えんし、新しく入ったプリンター、あれ調子悪くってさぁ、すぐ紙詰まりしやがる。
女 そう。
女、座る。
男 どうした、訊いときながら。面白くなかったか。
女 そんなことない。ただ、…
男 ただ?
女 …いいの、忘れて。
男 ……
女 食べてきた?
男 あ、あぁ、軽くだけどな。ちょっと小腹は空いてる。
女 そう、じゃあ、卵焼きでも作りましょうか。
女、立ち上がりキッチンに行き、料理を作り始める。
間。
男は何も出来ず、座っている。
女 …テレビでも観たら?
男 あぁ、いや、いいんだ。
女 そう。
間。
突如、女、包丁を持って突っ込んでくる。
男、反射的に飛びのく。
男 由紀子…?
女 ただいまは言って。
男 ?
女 せめてただいまは言って。あなたから会話を始めて。何でも質問させないで。私のことも訊いて。
男 ごめん…
男 …ただいま、……
女、キッチンに戻り料理の続きを再開する。
男は何も出来ず、立ったまま。