「土用のうなぎ」

 

 舞台には一組の男女。

 

女1 今私はシブヤにいます。といっても私はいわゆるシブヤを生息地としている輩、明日とも知れぬ自分の未来を見ないようにして毎日を遊園地で過ごすロバではありません。

男1 うちのコンビニのトイレの中にはゴミ箱があって。ゴミ箱があるのはまぁフツーのことだと思うんですが、そのゴミ箱の中にこの前なんかギトギトしててらてらしたものが入っていて。

女1 私がシブヤに行ったのは参考書を買うためであって、つまり私は参考書を買う心積もりしかしていなかったのです。それは当然でしょう。そうしたら人ごみ。人ごみ。

男1 そのギトギトしててらてらしたものはうなぎの頭だったんですね実は。なんでうなぎの頭がコンビニのトイレにあるのだ、と僕は思ったわけです。シュール!

女1 私は少々めまいを感じ一番近くにあったセブンイレブンに入りました。過度に効いた冷房で私は自我を取り戻し、何か甘いものを求めようとしました。

男1 シュールって簡単に言うんじゃねぇよクソッタレ。シュールっていうのはシュルレアリスムのシュールであっていわば超現実的なものの事をいうのね。ダリとかね。あそこまで行かなければシュールっていうレベルには到達できないのだ。それをコンビニのトイレにうなぎの頭があったよ、って言ったらみんなシュールシュール言いやがって。あーまじ頭悪い。あーマジ腐ってる。そんな輩とじゃないと自我を保てない自分マジ腐ってる。

女1 甘いものを求めるためには、スイーツコーナーではしゃいでいる一組のカップルをどかさなくてはなりませんでした。脳内では既にこの一組のカップルはメッタ刺しにされて肉塊に成り果てていましたが、現実の私は辛抱強く彼らがどいてくれるのを待つほかありませんでした。

男1 僕は王族になりたい。

女1 待っている間、どうしても彼らの会話が耳に入ってきてしまいました。陳腐な内容でした。

男1 王族になりたい僕。コンビニのレジ打ち。スイーツコーナーでいちゃつくカップルを見ながら、暇な僕はその彼女の方をどうやって襲おうか考え始めていました。ですがすぐに、そんなクソみたいな事を想像する自分が本当に最低だと感じてその妄想をやめました。

女1 バナナバナナバナナ。

男1 AⅤで一番エロいのってさ、

女1 うん、

男1 チューしてるとこなんだぜ実は。知ってた?

女1 知らなかった。

男1 いやほんとあそこエロいから。やっぱチューだよ。チューはやばいね。

女1 へー。ね、どれにする。

男1 シュークリーム。

女1 シュークリームだって。

 

 女、笑う。

 溶暗。