「弾痕」

 

 

たくさんの人々。

 

女1 私にはおばあちゃんがいない。

男1 僕は人を撃った事がない。撃つ意義を感じない。

女2 正しい顔ってどんな顔。部長に言われたんだけど。正しい顔って何。

男2 最近娘が話してくれない。

女1 正確に言えば、いた。何故かと言えば私が今ここにいるから。私がここにいるという事は私にはお母さんがいて、お母さんがいるという事はお母さんのお母さんがいるから。

男1 僕はいつもたくさんの武器をぶら下げてパトロールをする。その割に刃物を持っている人がいたら捕まえる。それはそうだ。だが何か滑稽だ。

男2 最近娘が話してくれない。俺の部下は使えない。

女2 てかなんかあの男なんか舐めるような目で見るからすげー不快。

男2 俺の部下と娘は同じくらいの年なのに、同年齢の他人は何か別の生き物みたいに見える。

女1 おばあちゃんが好きだった。おばあちゃんはいっつも笑ってた。おばあちゃんは何も悪くなかった。

男2 お前、笑えよ。俺はそう言った。

女2 仕事場では笑顔を絶やすな。それが正しい顔だ。

女1 おばあちゃんは何も悪くなかった。

女2 死ねよ。

男1 何か滑稽だ。徐々にそれがいやになった。だからやめる事にした。だがやめる前に一発撃っておきたかった。

女2 一発撃つってどっちの意味ですかー?

男2 俺の娘は違う。あんな女とは別物だ。きっと。

男1 お先にサヨナラ。

 

全員、「どーん」と叫ぶ。

 男1、倒れる。

 

女1 貫通した弾丸はおばあちゃんも貫通した。

女2 かんつうってどっちのかんつうですかー?

男2 死ねよ。

男1 死んだよ。

女1 おばあちゃんは死んだ。巻き添えで死んだ。

女2 私に娘さんを重ねるのはやめていただきたい。

男2 どうして俺はこんなに人に恵まれないんだろう。

男1 こっちにおいでよ。

男2 いやだ。

男1 気持ちいいよ。戦争をしよう。そうしたらすぐにこっちに来れるよ。

女1 おばあちゃんがいないなら、私はどうなってもいい。一発撃ってしまおう。そうしたら気持ちよくなれる。一発売ってしまおうか。そっちは気持ちいいのかな。

男2 いやだ!

女2 どっちもそれなりにイケるよ。こっちの世界よりは。

男2 やめろ!

女1 私を娘扱いするのはやめていただきたい。

 

暗転。